結論から書きます。経営者は意思決定の質を維持するために、「同じ机で考え続けない」リズムを意識的に作ったほうがいい。これが今回の那須で再確認したテーマです。

10月、家族で那須のリゾナーレに2泊3日の旅をしてきました。あいにくの雨でしたが、霧と雨の森は普段と違って神秘的で、これはこれで気持ちが良かったです。ご飯と温泉で体を休め、夜は子供が寝たあとに外のベンチでPCを開く。完全オフはできないけれど、それでよかった、という旅でした。

今日はその旅のレポートを兼ねて、「CEOが1日に下す50件の意思決定の質を、どう維持するか」というテーマを、研究データと自分の運用ルールから整理してみます。経営者にとっては地味だけど、累積で大きな差になる話です。

霧と雨の森、リゾナーレのご飯

朝起きて窓を開けたら、山が霧で隠れていました。雨が降って湿度が高いから、空気の重さが東京とまったく違う。

リゾナーレ那須のご飯は、何回行っても本当に美味しい。バイキング形式なのに、一品一品のクオリティが下がらないんですよね。地元野菜を使った前菜、その場で焼いてくれる肉、デザートのバリエーション。つい食べすぎてしまう。

美味しいご飯を食べて、温泉に入って、ゆっくり寝る。喧騒な日常から離れて、体を休める——そういう旅行に憧れます。ですが、今の自分はそうもいかない。それは別に悪いことではなくて、後述しますが「ハイブリッドな働き方」のほうが、私には合っています。

リゾナーレ那須の屋内ボールプールで遊ぶ子供
リゾナーレ那須の屋内ボールプール。雨でも子供を全力で遊ばせられる場所がある。

雨の日でも子供を退屈させない仕掛けが、館内にぎっしり用意されています。屋内ボールプール、絵本ライブラリー、季節のアクティビティ。子供を「飽きさせない設計」が徹底されていて、親として本当にありがたい。

リゾナーレ那須で子供と果物を選ぶ
リゾナーレ内のアクティビティで、子供と一緒に果物を選ぶ時間。

季節ごとの装飾も気合が入っていて、10月はハロウィン仕様。館内のあちこちにかぼちゃと装飾が配されていて、子供向けの仮装コーナーまで用意されています。

リゾナーレのハロウィン装飾の前で子供
館内のハロウィン装飾。「リゾナーレ」と彫られた飾りかぼちゃの前で、子供がミニ仮装。

夜のベンチ、池を見ながらの会議——なぜ生産性が上がるのか

妻と子供が寝静まったあと、外のベンチに座ってPCを開きました。池が見えます。

正直に言うと、こういう時の会議の生産性は、東京の会議室で同じ会議をやるより圧倒的に高い。理由ははっきりしています。

脳のリソースは限られている。朝はフレッシュな頭で考えられるが、午後になると露骨に決断の質が落ちてくる。これは経験則ではなく、研究でも示されている事実です。詳しいデータは次のセクションでまとめます。

夜のベンチで、池を見ながら会議
夜のリゾナーレ。ライトアップされた橋と、外の池。

「Decision Fatigue」——CEOは1日50件、後半は質が露骨に落ちる

心理学・経営学の研究領域で「Decision Fatigue(意思決定疲労)」と呼ばれる現象があります。

CEO一人が一日に下す重要な意思決定の平均は、約50件と言われています。判断が積み重なると、後半の決定の質は明らかに落ちる。2024年に JAMA Network Open に掲載された研究では、医師がシフト後半に不必要な抗生物質を処方する確率が有意に上がるというデータが示されました。同年のアーカンソー州の交通裁判所の研究でも、休憩なしで進む長い審理セッションでは、後半の判決における棄却率が下がっていく傾向が確認されています。

McKinsey が2024年に出したレポートでは、意思決定疲労を組織的に管理しているリーダーがいる企業は、そうでない企業に比べて5年累計の収益性が 22%高い とされています。「決め方の質」は、累積で会社の業績に効く。逆に言えば、ここを放置している経営者は、5年で22%分の収益機会を逃している計算になります。

違う頭の使い方が、思考をクリアにする

私が旅先の夜に判断の質が上がる理由は、推測ですが、日中に「違う頭の使い方」をしているからだと思います。

東京で同じ机に向かって意思決定を続けると、文脈が固定化する。同じ視点、同じバイアス、同じ思考のショートカット。これが疲労の根本原因の一つです。

旅先では、運転、子供との会話、見たことのない景色、知らない料理。脳が異なる回路を使う。夜に仕事に戻った時、視点が一つズレているんですよね。普段なら見えなかった選択肢が見える。

これは「リフレッシュ」とは違います。物理的に休んだのではなく、別のことをしただけ。でも結果として、決定の質が上がる。「リフレッシュ=休む」と考えていると、この機会を逃します。

オンとオフを切り分けない、サステナブルな走り方

私はオンとオフを切り分けるのが苦手です。頭を切り替えるオーバーヘッドが、人より大きい気がする。完全に「仕事しない時間」を作ろうとすると、戻る時に逆に消耗します。

だから私は、切り替えの必要がない、ハイブリッドでサステナブルな働き方を確立する必要があると思っています。これはたぶん、経営者全般に当てはまる課題です。

経営は長距離走でありつつ、時に短距離走を求められる。走り続けることをやめてはいけない。だから「いかに走り切れるリズムを身につけるか」——これが経営者に求められる、地味だけど大きなチャレンジだと思っています。

ちなみに、判断疲労の対策として有効なのは、「ルーティン化できるものは決めない」「重要な決定を朝に集中させる」「夜の判断は翌朝に必ず見直す」あたりが定石です。私は3つ目を特に意識しています。夜に出した結論は、翌朝の頭で30秒見直す。これだけで、勢いで間違えた判断を相当数キャッチできます。

那須どうぶつ王国、IPビジネスとしての完成度がすごい

話を旅行に戻すと、那須どうぶつ王国は地味に穴場でした。経営者目線で見ると、「コンテンツビジネスとして本気で設計されている」のが至るところに見えて、めちゃくちゃ勉強になります。

那須どうぶつ王国の入口、ハロウィン装飾
那須どうぶつ王国の入口。10月はハロウィン仕様。装飾の熱量が桁違い。

まず、ここでしか見られない動物のラインナップが強い。マヌルネコ、スナネコ、レッサーパンダ、カピバラ。よくある動物園の枠から、ひとつ攻めの方向に振り切っている印象です。

マヌルネコ、ぼってりした顔の中毒性

私のお気に入りはマヌルネコ。世界で最も古いネコ科のひとつとも言われていて、ぼってりした体格と無愛想な顔がたまらない。ここで初めて見た瞬間、完全に心を持っていかれました。

マヌルネコが切り株で寝ている
切り株の上で完全に脱力しているマヌルネコ。野生の警戒心はどこへ。

しばらく見ていると、別カットでは座り直して正面をじっと見据えてくる。動かないようでいて、表情と姿勢の細かい変化がある。「動物の魅力を、滞在時間で味わわせる」設計になっているんですよね。来園者を立ち止まらせる動物の選び方も、戦略的だなと感じます。

マヌルネコが座って正面を見ている
同じマヌルネコ、別カット。座り直して正面を睨む。表情の振れ幅で長居させてくる。

マヌルネコのオリジナルソング、IP化の本気度

このマヌルネコ、なんと オリジナルソング まで作られています。園内のショップに入ると曲が流れ、グッズコーナーには人形・キーホルダー・Tシャツ・マグカップ・ステッカーまで揃って並ぶ。

これ、完全に「動物のIP化」のお手本です。①個性ある動物を選ぶ、②キャラクター化する、③テーマソングで世界観を作る、④グッズで持ち帰らせる、⑤来園者を「ファン」に変える。動物園というよりも、IPビジネスの教科書のような展開を、地方の動物園が本気でやっている。

で、結局私もマヌルネコの人形を1つ買って帰りました。子供のため、というよりは 自分のため に。机の上に置いて、ふとした瞬間にあの顔を見ると、ちょっと笑える。大人の財布を開かせるグッズ設計、本当に上手いです。

ショーと体験設計、半日では足りない密度

動物園としての展示だけでなく、ショーや屋外散歩、餌やり体験のスケジュールも細かく組まれています。「動物を見る」だけで終わらせない、コンテンツとしての密度がすごい。

園内マップを見ると、ショー時間が30分〜1時間刻みで複数会場で並行進行している。来園者は自然と「次のショーまで他の場所を回る」ことになり、滞在時間が伸びる。これも完全に意図された動線設計です。

どうぶつ王国のハロウィン演出、かぼちゃとペリカン写真パネル
園内のハロウィン演出。手書きの日付ボード、かぼちゃ帽子のオブジェ、ペリカンの写真パネル。細部まで装飾の手が入っている。

経営者として、ここから持ち帰れる学びは大きい。① 強いキャラクターを作る、② 世界観を音楽・装飾・グッズで多層化する、③ 滞在時間を伸ばす導線を設計する、④ 大人にも刺さるグッズを置く。これ、ほぼそのまま自社のプロダクト戦略にも転用できます。

帰り道、地元の野菜ともみじまんじゅうを買って東京に戻りました。

霧の朝、雨の森、夜のベンチでの会議。短い2泊でしたが、頭の中身がきれいに整理されて、翌週の判断が一段速くなった実感があります。

意思決定疲労は、走り続ける経営者にとって、見えにくい最大コストです。「決め方の質」は、累積で会社の業績に効く。たまの旅で、自分の判断リズムを定期的に点検する。これは経営者として、続けていく価値のある習慣だと思っています。

では、明日の朝の決定から、また精度を上げていきましょう。

Sources / 参考文献

経営の壁打ち、30分から

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